世界一周旅行は、多くの旅人が抱く壮大な夢の一つです。その夢を実現するための強力な手段として「世界一周航空券」が存在します。これは、複数の航空会社が加盟する航空連合(アライアンス)が提供する特別な航空券で、一枚のチケットで世界中を巡ることが可能です。
しかし、その利用には複雑なルールが伴い、どのようなルートを選ぶか、費用はいくらかかるのかを事前に把握するためには「シミュレーション」が不可欠です。どの都市を、どの順番で訪れ、どのくらいの期間滞在するのか。これらをパズルのように組み立てる作業がシミュレーションです。
この記事では、Webライターの視点から、体験談を一切排し、世界一周航空券のシミュレーションに必要な客観的な情報、基本ルール、アライアンスごとの特徴、そして具体的な費用感について、収集した情報を基に幅広く調査し、詳細に解説します。これから世界一周の計画を立てようとする方にとって、必読のガイドとなることを目指します。
世界一周航空券のシミュレーション基礎知識:ルールと主要アライアンス
世界一周航空券のシミュレーションを行う上で、まずはその土台となる基本ルールと、チケットを提供している主要な航空連合(アライアンス)の特徴を理解することが第一歩です。ルールを知らなければ、有効なルートを作成することすらできません。ここでは、シミュレーションの前提となる必須知識を徹底的に解説します。
世界一周航空券とは?仕組みと種類を解説
世界一周航空券とは、厳密には特定の航空連合(アライアンス)に加盟する航空会社の便を複数組み合わせて、世界を一周するルート(太平洋と大西洋を各1回横断)を、1枚の通し航空券として購入できる商品のことを指します。
主な提供元は、以下の3大アライアンスです。
- スターアライアンス(Star Alliance):ANA(全日本空輸)が加盟しており、世界最大の加盟航空会社数を誇ります。
- ワンワールド(oneworld):JAL(日本航空)が加盟しており、こちらも強力なネットワークを持っています。
- スカイチーム(SkyTeam):デルタ航空やエールフランスなどが加盟していますが、日系航空会社は加盟していません。
シミュレーションを行う上では、主にスターアライアンスかワンワールドのどちらかを選択するのが一般的です。
この航空券の最大の特徴は、個別に航空券を購入していく(LCCなどを乗り継ぐ)場合と比較し、以下のメリットがある点です。
- 利便性:加盟航空会社の広範なネットワークを利用できます。
- 柔軟性:発券後の日付変更が(多くの場合)無料で、あるいは比較的安価な手数料で可能です。
- 信頼性:大手航空会社が中心であるため、欠航や遅延時のサポートが手厚い傾向にあります。
- 荷物:LCCとは異なり、一定量の受託手荷物が料金に含まれています。
一方で、シミュレーションが複雑であること、LCCを駆使したルートに比べて総額が高くなる可能性があること、そして厳格なルールに従う必要があることがデメリットとして挙げられます。
シミュレーションの前提となる重要ルール(方向・回数・期間)
世界一周航空券のシミュレーションは、自由な旅行計画とは異なり、厳格なルールの下で行う必要があります。アライアンスによって細部は異なりますが、ほぼ共通する基本的なルールは以下の通りです。
- 旅行の方向
- 東回り(アジア→太平洋→北米→大西洋→ヨーロッパ→アジア)または西回り(その逆)のどちらか一方向にのみ進む必要があります。
- シミュレーションの途中で逆行するルート(例:東京→ロンドン→バンコク)は基本的に組むことができません。
- 太平洋と大西洋の横断
- 太平洋横断(アジア・オセアニアと北米・南米間)と大西洋横断(北米・南米とヨーロッパ・アフリカ間)を、それぞれ1回ずつ飛行機で横断する必要があります。
- 有効期間
- 一般的に、最初のフライト(出発地からの国際線)に搭乗してから最長で1年間有効です。シミュレーションでは、この1年以内に全ての旅程を終える必要があります。
- フライト(搭乗)回数
- 搭乗できるフライトの回数に上限があります。スターアライアンス、ワンワールド共に最大16区間(フライト)までと定められています。
- 途中降機(ストップオーバー)
- 24時間以上の滞在を「途中降機」と呼びます。この回数にも上限が設けられている場合があります(例:スターアライアンスは最大15回)。シミュレーションでは、どこに長く滞在するかを計画に組み込みます。
- 地上移動区間(サーフェス・セクター)
- ある都市に到着した後、次の都市から飛行機に乗る場合、その間の移動(例:ロンドン着、パリ発)を地上移動(陸路や海路、あるいは別手配のフライト)で行うことができます。
- この地上移動区間も、フライト1回分としてカウントされる場合があるため、シミュレーション時に注意が必要です。
これらのルールをパズルのピースとして、自分の行きたい都市を当てはめていくのが、シミュレーションの基本的な作業となります。
スターアライアンス(マイル制)の特徴とシミュレーション
スターアライアンスの世界一周航空券は、加盟航空会社数が最多(2025年現在、25社以上)であり、非常に広範なネットワークを誇ることが最大の特徴です。
料金体系:飛行マイル制 スターアライアンスの料金は「飛行マイル制」を採用しています。これは、シミュレーションで作成したルートの全区間の飛行マイル(IATAが定めるTPM:区間基本マイル)の合計によって、料金クラスが決定される仕組みです。
2025年現在の主な料金区分(エコノミークラスの場合。燃油サーチャージ・諸税別)
- STAR 1:最大29,000マイル以内(例:約36万円~)
- STAR 2:最大34,000マイル以内(例:約42万円~)
- STAR 3:最大39,000マイル以内(例:約49万円~)
シミュレーションでは、行きたい都市を繋げた結果、合計マイルがどの区分に収まるかで料金が変動します。
シミュレーションツール:「Book and Fly」 スターアライアンスは「Book and Fly」という公式のオンラインシミュレーションツールを提供しています。
- 使い方:出発地、訪問したい都市を順番に入力していくと、自動的にフライトを検索し、ルートを地図上に表示してくれます。
- マイル計算:各区間のマイルと合計マイル数を自動で計算してくれるため、シミュレーションに必須のツールです。
- ルールチェック:太平洋・大西洋横断や方向などの基本ルールに違反していないかも簡易的にチェックされます。
- 保存機能:作成したルートは保存コード(16桁など)で保存でき、後で呼び出して修正するシミュレーション作業が可能です。
シミュレーションのポイント
- 加盟航空会社が多いため、地方都市へのアクセスも比較的容易です。
- マイル制のため、少し遠回りするだけで料金区分が上がってしまう可能性があります。シミュレーション中は常に合計マイル数を意識する必要があります。
ワンワールド(大陸制)の特徴とシミュレーション
ワンワールドの世界一周航空券は、JALやアメリカン航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、カンタス航空など、各地域で強力なブランド力を持つ航空会社が加盟しています(2025年現在、10数社)。
料金体系:訪問大陸制(ワンワールド・エクスプローラー) ワンワールドの主要な世界一周航空券「ワンワールド・エクスプローラー(oneworld Explorer)」は、「訪問大陸数」によって料金が決定されるユニークな仕組みを採用しています。
大陸の定義(ワンワールド独自のもの)
- アジア
- ヨーロッパ(中東・アフリカ含む)
- 北米(中南米・カリブ海含む)
- 南米
- オセアニア(オーストラリア、ニュージーランドなど)
2025年現在の主な料金区分(エコノミークラスの場合。燃油サーチャージ・諸税別)
- 3大陸(例:アジア→ヨーロッパ→北米):約37万円~
- 4大陸:約39万円~
- 5大陸:約46万円~
- 6大陸:約53万円~
シミュレーションツール:公式プランニングツール ワンワールドも公式ウェブサイト上でシミュレーション(プランニング)ツールを提供しています。
- 使い方:「Book and Fly」と同様に、訪問したい都市を順番に追加していきます。
- 大陸カウント:訪問する大陸数を自動でカウントし、適用される料金レベルを表示します。
シミュレーションのポイント
- 料金体系が大陸制であるため、同じ大陸内であれば、どれだけ長距離を飛んでも(規定フライト数以内であれば)料金が変わりません。
- 例えば「北米」大陸内(中南米含む)で、ニューヨークからリマ(ペルー)へ飛んでも、ニューヨークからロサンゼルスへ飛んでも、料金計算上の扱いは同じ「北米」です。
- この特性を活かし、大陸内を広範囲に移動するようなルートのシミュレーションに向いています。
- 一方で、スターアライアンスに比べ加盟社数が少ないため、特にアフリカや一部アジア地域へのネットワークが手薄になる可能性があります。
ルート別・クラス別!世界一周航空券の費用シミュレーション実践
世界一周航空券の基本ルールとアライアンスの違いを理解したら、次はいよいよ具体的なルート作成と費用シミュレーションの段階です。総費用は、ルート(飛行距離や訪問大陸数)だけでなく、搭乗クラス(エコノミーかビジネスか)によっても劇的に変化します。
ルート作成の戦略(東回り・西回り・季節の考慮)
シミュレーションの第一歩は、大まかなルート戦略を立てるこ とです。
東回り vs 西回り
- 東回り(アジア→北米→ヨーロッパ→アジア)
- メリット:偏西風の影響で、太平洋・大西洋横断フライトの所要時間が短くなる傾向があります。
- デメリット:時差ボケは、東回りの方が(体内時計を進める必要があり)キツいと一般的に言われます。
- 西回り(アジア→ヨーロッパ→北米→アジア)
- メリット:時差ボケの調整が(体内時計を遅らせるため)比較的楽とされます。
- デメリット:偏西風に逆らうため、フライト時間が長くなる傾向があります。
どちらを選ぶかは好みによりますが、シミュレーション上はどちらでも作成可能です。
季節の考慮 シミュレーションでルートを組む際は、訪問する地域の「季節」を考慮することが非常に重要です。
- ベストシーズン:気候が安定し、観光に適した時期(乾季など)を狙うのが一般的です。
- 悪天候:ハリケーンシーズン(カリブ海:8月~10月頃)、モンスーン(東南アジア)などを避けるルートをシミュレーションする必要があります。
- 費用:ハイシーズンは航空券以外の現地滞在費(宿泊費など)が高騰します。
例えば、「ヨーロッパの夏(7-8月)→北米の秋(9-10月)→オセアニアの夏(12-1月)→東南アジアの乾季(2-3月)」といった流れをシミュレーションで組み立てます。
エコノミークラスの費用シミュレーションと節約術
世界一周航空券の費用を最も抑えられるのがエコノミークラスです。
費用シミュレーションの目安(2025年現在) シミュレーションを行う際、総費用は以下の3つの合計で考える必要があります。
- 航空券代金(基本運賃)
- スターアライアンス(マイル制):約36万円(STAR 1)~
- ワンワールド(大陸制):約37万円(3大陸)~
- 燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)
- これは航空券代金とは「別」にかかる費用で、ルートや利用航空会社、原油価格によって大きく変動します。
- シミュレーションでは非常に見積もりが難しい要素ですが、近年の傾向では、フライト回数が多い複雑なルートの場合、10万円~20万円以上かかることも珍しくありません。
- 各種税金(空港使用料、出入国税など)
- 訪問する国や利用する空港ごとに課されます。これも数万円程度を見込む必要があります。
総費用のシミュレーション例(エコノミー)
- 比較的シンプルなルート(3大陸、STAR 1)の場合:
- 航空券約36万円+燃油・諸税約15万円=総額 約51万円~
- 複雑なルート(5大陸、STAR 3)の場合:
- 航空券約49万円+燃油・諸税約25万円=総額 約74万円~
節約術
- 燃油サーチャージの安い航空会社を選ぶ:シミュレーションの際、同じ区間でも航空会社によって燃油サーチャージが異なる場合があります。(例:アジア系や中東系は比較的安い傾向、欧米系は高い傾向など)
- 陸路移動(サーフェス区間)の活用:フライト回数を節約するため、近距離の都市間(例:ロンドン〜パリ、バンコク〜シンガポール)は陸路で移動するルートをシミュレーションに組み込みます。
- LCCの別途利用:世界一周航空券では幹線(大陸間)のみをカバーし、大陸内の細かな移動は別途LCCを手配することで、フライト回数やマイル数を節約できる場合があります。
ビジネスクラスの費用シミュレーションと費用対効果
長期間にわたり、長距離フライトを繰り返す世界一周旅行では、ビジネスクラスの選択も非常に現実的な選択肢となります。
費用シミュレーションの目安(2025年現在) ビジネスクラスの航空券代金は、エコノミーの約1.5倍~2倍強が目安です。
- 航空券代金(基本運賃)
- スターアライアンス(マイル制):約71万円(STAR 1)~
- ワンワールド(大陸制):約79万円(3大陸)~
- 燃油サーチャージ・諸税
- エコノミーと(ほぼ)同額か、若干高くなる場合があります。
総費用のシミュレーション例(ビジネス)
- シンプルなルート(3大陸、STAR 1)の場合:
- 航空券約71万円+燃油・諸税約15万円=総額 約86万円~
- 複雑なルート(5大陸、STAR 3)の場合:
- 航空券約107万円(ワンワールド5大陸)+燃油・諸税約25万円=総額 約132万円~
費用対効果とメリット シミュレーション上、金額は跳ね上がりますが、得られるメリットは絶大です。
- 疲労の軽減:長距離フライトでのフルフラットシートは、エコノミークラスとは比較にならないほど体力を温存できます。次の都市に到着した直後から活動的に動けることは、限られた旅行期間において大きな価値があります。
- 空港ラウンジの利用:各空港でビジネスクラスラウンジが利用可能です。無料の食事やドリンク、シャワー、静かな作業スペースが提供され、乗り継ぎ時間(トランジット)のストレスが激減します。
- 優先サービス:優先チェックイン、優先保安検査、優先搭乗、荷物の優先引き渡しなど、空港でのあらゆる待機時間が短縮されます。
- 機内サービス:高品質な機内食やドリンクサービスが受けられます。
世界一周という特殊な旅行形態において、16回ものフライトをこなすことを考えると、ビジネスクラスを選択する費用対効果は、通常の往復旅行よりも格段に高いと言えます。
まとめ:世界一周航空券のシミュレーションを成功させるために
世界一周航空券シミュレーションの重要ポイントまとめ
今回は世界一周航空券のシミュレーションについてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・世界一周航空券は航空連合(アライアンス)が提供
・主な提供元はスターアライアンスとワンワールド
・シミュレーションには厳格なルール(一方向、大陸横断)の理解が必須
・スターアライアンスは飛行マイル数の合計で料金が決まる「マイル制」
・ワンワールドは訪問大陸の数で料金が決まる「大陸制」
・各アライアンスが公式のオンラインシミュレーションツールを提供
・ルートは東回りか西回りかをまず決定する
・訪問する地域の季節(ベストシーズンや悪天候)の考慮が重要
・総費用は「航空券代金」「燃油サーチャージ」「諸税」の合計で試算
・燃油サーチャージはルートや航空会社により大きく変動する
・エコノミークラスの総額目安は50万円台から
・ビジネスクラスの総額目安は80万円台から
・陸路移動(サーフェス区間)の活用でフライト回数を節約可能
・ビジネスクラスは疲労軽減とラウンジ利用のメリットが非常に大きい
・シミュレーションは何度でもやり直しが可能
世界一周航空券のシミュレーションは、ルールが複雑で最初は戸惑うかもしれません。しかし、アライアンスの特性を理解し、公式ツールを使いこなすことで、自分だけの理想的なルートと正確な費用感を掴むことができます。
この記事で調査した情報を基に、ぜひあなた自身の夢のルート作成に挑戦してみてください。緻密で計画的なシミュレーションこそが、忘れられない世界一周旅行を実現するための確実な第一歩となるでしょう。

