ビジネスシーンにおいて、報酬や給与の支払いサイト(期間)は、受取側の生活や資金繰りに直結する極めて重要な要素です。その中でも「月末締め・翌月末払い」という条件は、企業間取引(BtoB)や雇用契約において頻繁に見られる一般的な支払いサイクルの一つです。しかし、労働者や受注者の中には「働いてから現金化されるまでが長すぎるのではないか」「これほど支払いが遅いのは法律的に問題ないのか」という疑問や不安を抱く声も少なくありません。
特に、フリーランスや個人事業主として活動している場合、キャッシュフローの悪化は死活問題となり得ます。また、労働者にとっても、給与の支払いが遅れることは生活設計を狂わせる要因となります。そこで本記事では、この「月末締め・翌月末払い」という商習慣が、日本の法律(下請法、労働基準法、フリーランス新法など)に照らし合わせて違法となるのか、それとも適法の範囲内なのかを徹底的に調査し、解説していきます。契約を結ぶ前のチェックポイントや、万が一トラブルになった際の対処法についても詳述しますので、自身の権利を守るための知識としてお役立てください。
月末締めの翌月末払いは違法になるのか?法律の観点から解説
結論から申し上げますと、「月末締め・翌月末払い」という支払いサイト自体は、基本的には違法ではありません。多くの企業で採用されているこのサイクルは、事務処理の効率化や資金繰りの調整という観点から、長年の商習慣として定着しています。しかし、これはあくまで「原則」の話であり、契約の形態(雇用契約か業務委託契約か)や、適用される法律(下請法や労働基準法)によっては、違法と判断されるケースや、限りなくグレーに近いケースが存在します。ここでは、それぞれの法律の観点から、適法と違法の境界線を明確にしていきます。
下請法における支払期日のルールとは
個人事業主やフリーランス、あるいは中小企業が大企業から業務を受託する場合、最も意識すべき法律が「下請代金支払遅延等防止法」、通称「下請法」です。この法律は、立場の弱い受注者(下請事業者)を保護するために制定されており、親事業者(発注者)に対して厳しい規制を設けています。
下請法第2条の2において、下請代金の支払期日は「給付を受領した日(役務提供をした日)から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内」に定めなければならないと規定されています。ここで重要なのは、起算日が「請求書の発行日」や「締め日」ではなく、「納品物を受領した日(または役務を提供した日)」であるという点です。
例えば、4月1日に納品し、4月30日が締め日、5月31日が支払日である場合を考えてみましょう。4月1日(受領日)から5月31日(支払日)までは約60日となります。これは下請法が定める「60日以内」のギリギリの範囲に収まっているため、違法ではありません。しかし、もし支払日が「翌々月の5日」などに設定されていた場合、4月1日の納品分については60日を超過することになり、下請法違反となる可能性が高まります。
つまり、「月末締め・翌月末払い」という設定自体は、そのサイクルの中で最も早い納品日(月の初日)から数えても概ね60日以内に収まるため、下請法の観点からは適法とされるのが一般的です。ただし、検収期間を不当に長く設定し、実質的に60日を超えて支払うような行為は法の趣旨に反するため、厳重な注意が必要です。
労働基準法における賃金支払いの原則
次に、会社員やアルバイトなどの「雇用契約」における場合を見ていきます。労働者の賃金支払いについては、労働基準法第24条によって「賃金支払いの5原則」が定められています。その5原則とは、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月1回以上払いの原則」「一定期日払いの原則」です。
「月末締め・翌月末払い」は、この中の「毎月1回以上払い」と「一定期日払い」に関連します。法律上、毎月決まった日に支払われるのであれば、その期日が締め日からどれくらい離れているかについての明確な日数制限(例えば「締め日から30日以内に支払わなければならない」といった規定)は、実は労働基準法には明記されていません。
したがって、就業規則や雇用契約書において「毎月月末締め、翌月末日支払い」と明確に規定されており、それが毎月確実に実行されているのであれば、労働基準法違反には当たりません。ただし、支払サイトがあまりにも長期にわたる場合(例えば締め日から2ヶ月後など)は、公序良俗に反するとみなされ、無効となる可能性がありますが、1ヶ月程度のサイトであれば法的には許容範囲内と解釈されています。
しかし、労働者心理としては、働き始めてから最初の給与が入るまで最大で2ヶ月近く待つことになるため、経済的な負担が大きいのも事実です。そのため、多くの企業では翌月の10日や25日払いなど、より早いサイクルを採用しているケースが一般的ですが、翌月末払いが直ちに違法となるわけではないことを理解しておく必要があります。
建設業法など特定業種における支払いの規定
Webライティングや一般的な事務業務とは異なりますが、建設業界においては「建設業法」という独自の法律が存在し、支払い期間についても規定があります。建設業は重層下請構造が一般的であり、下位の下請負人が資金繰りに苦しむことを防ぐためです。
建設業法では、元請負人は下請負人に対して、注文主から出来高払いまたは竣工払いを受けた日から「1ヶ月以内」かつ「できる限り短い期間内」に支払わなければならないと定められています。また、特定建設業者が下請負人(特定建設業者を除く資本金4,000万円未満の法人または個人)に支払う場合、引渡し(検査合格)の申し出から「50日以内」に支払う義務があります。
このように、業種によっては一般法(民法や商法)よりも優先される特別法が存在し、そこでは「月末締め・翌月末払い」よりも厳しい、あるいは具体的な日数制限が設けられている場合があります。自身の関わる業界に特有の法律がないかを確認することも、適法性を判断する上で非常に重要です。
契約自由の原則と公序良俗違反の境界線
BtoBの取引、つまり業務委託契約においては、原則として「契約自由の原則」が適用されます。これは、当事者同士が合意の上で契約を結ぶ限り、その内容は自由であるという考え方です。下請法の適用対象外となる取引(例えば、資本金が同程度の企業間取引や、下請法の資本金区分に当てはまらない場合など)では、この原則が強く働きます。
したがって、双方が合意しているのであれば、「月末締め・翌々月末払い」や、極端な例では「半年後払い」といった契約も、直ちに違法とはなりません。しかし、あまりにも理不尽な条件は、民法第90条の「公序良俗(公の秩序または善良の風俗)」に反するとして、無効とされる可能性があります。
「月末締め・翌月末払い」は、日本国内の商慣習として広く普及しているため、公序良俗違反として無効を主張するのは極めて困難です。しかし、これが「翌々月払い」や「手形払い(サイトが長い場合)」となると、受注者側の不利益が大きすぎるとして、公正取引委員会や中小企業庁の指導対象となるケースが出てきます。特に、2024年11月から施行される「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」では、発注者に対し、業務完了から60日以内の報酬支払いを義務付けており、契約自由の原則よりもフリーランス保護が優先される流れが加速しています。これにより、今後は契約上合意があったとしても、60日を超える支払いサイトは明確に違法となるケースが増加するでしょう。
月末締めの翌月末払い契約を結ぶ際のリスクと対策
前述の通り、「月末締め・翌月末払い」は多くの場合において違法ではありません。しかし、違法ではないからといって、受注者や労働者にとって「安全」であるとは限りません。支払までの期間が長いことは、それだけで一つのリスク要因となります。特に経済基盤が盤石でない個人事業主や中小企業にとって、売掛金の回収期間は経営の安定性を左右します。ここでは、実際にこの条件で契約を結ぶ際に想定されるリスクと、それに対する具体的な対策について深掘りしていきます。

資金繰りへの影響とキャッシュフロー管理の重要性
「月末締め・翌月末払い」の最大のリスクは、キャッシュフロー(現金の流れ)の悪化です。例えば、1月1日に仕事を開始し、1月31日に納品・請求を行ったとします。この入金があるのは2月28日(または29日)です。つまり、最初に稼働してから現金を手にするまで、丸々2ヶ月間は収入がない状態となります。
この間も、家賃、光熱費、通信費、あるいは外注費などの経費は発生し続けます。手元の運転資金が潤沢であれば問題ありませんが、自転車操業に近い状態の場合、この「2ヶ月の空白」が黒字倒産(利益は出ているが現金がなくて倒産すること)を引き起こす引き金になりかねません。
対策としては、まず自身の最低限必要な生活費や固定費を把握し、最低でも3ヶ月分、理想的には6ヶ月分の運転資金をプールしておくことが重要です。また、支払いサイトの早いクライアントとポートフォリオを組み合わせることで、入金日の分散を図るのも有効な戦略です。交渉が可能であれば、契約時に「月末締め・翌月15日払い」などに短縮できないか打診することも一つの手段ですが、相手企業の経理システム上の都合で断られることも多いため、自衛策としての資金管理が不可欠となります。
契約書に記載すべき必須事項と確認ポイント
トラブルを未然に防ぐためには、契約書の記載内容を精査することが不可欠です。口約束での発注は、「言った・言わない」の水掛け論になるリスクが高く、特に支払いに関するトラブルでは致命的です。
契約書を確認する際は、以下の項目が明確に記載されているかをチェックしてください。
- 締め日と支払日:「毎月月末締め、翌月末日支払い」と明記されているか。曖昧な表現(例:「検収後速やかに」など)は避けるべきです。
- 支払方法:銀行振込か、手形か、あるいはその他の方法か。振込手数料はどちらが負担するのか(下請法適用下では親事業者が負担するのが原則ですが、契約書で特約を結ぶケースも多いです)。
- 検収期間:納品後、何日以内に検収を行うかが定められているか。検収が遅れると、その分支払いが翌月に回される(いわゆる「月またぎ」)リスクがあります。「納品から○営業日以内に検収通知がない場合は合格とみなす」といった「みなし検収」の条項を入れておくことが強力な自衛策となります。
- 遅延損害金:支払いが遅れた場合のペナルティについての記載があるか。下請法では年率14.6%の遅延利息が定められていますが、契約書にも明記しておくことで抑止力になります。
もし相手方が契約書を用意してくれない場合は、こちらから発注書や請書、あるいは業務委託契約書のドラフトを提示し、合意形成を図る姿勢がプロフェッショナルとして求められます。
支払遅延が発生した場合の法的措置と対処法
「翌月末払い」という約束であっても、期日に入金が確認できないケースは残念ながら発生します。単なる経理担当者のミスであればすぐに解消されますが、相手企業の資金繰りが悪化している場合は深刻です。
支払遅延が発生した場合、以下の手順で冷静に対処する必要があります。
- 事実確認:まずはメールや電話で、丁寧に状況を確認します。「入金が確認できておりませんが、手違い等はございませんでしょうか」といった柔らかい表現から入るのがマナーです。
- 内容証明郵便の送付:催促しても反応がない、あるいは支払う意思が見られない場合は、内容証明郵便を送付します。これは「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるもので、法的措置への移行を予感させ、相手に心理的圧力をかける効果があります。
- 公正取引委員会・中小企業庁への通報:下請法の適用対象であれば、公的機関への相談・通報が有効です。「下請かけこみ寺」などの相談窓口も用意されており、弁護士による無料相談を受けられる場合もあります。
- 少額訴訟・支払督促:法的手段に出る場合、60万円以下の請求であれば「少額訴訟」という簡易的な裁判制度が利用できます。原則1回の審理で判決が出るため、時間と費用を節約できます。また、裁判所から支払いを命じてもらう「支払督促」も有効な手段です。
重要なのは、泣き寝入りをしないことです。「月末締め・翌月末払い」は適法な範囲内のサイトですが、その期日を1日でも過ぎれば契約違反(債務不履行)であり、違法状態となります。毅然とした態度で対応するためにも、日頃から証拠となるメールや成果物の記録を整理・保存しておくことが肝要です。
月末締めの翌月末払いは違法かどうかのまとめ
月末締めの翌月末払い契約に関する法的見解のまとめ
今回は月末締めの翌月末払いの違法性と法的根拠についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・月末締め翌月末払いは基本的に違法ではなく商習慣として定着している
・下請法では受領日から60日以内の支払いが義務付けられている
・翌月末払いは最長で約60日となるため下請法の範囲内と解釈される
・納品日が月初のほうが支払いまでの期間が長くなる傾向がある
・労働基準法では毎月一回の一定期日払いが守られていれば適法である
・給与支払いのサイトに関する明確な日数制限は労基法にはない
・建設業法など特定業種ではより短い支払い期間が定められている
・2024年施行のフリーランス新法でも60日以内の支払いが原則となる
・契約自由の原則があるが公序良俗に反する長期サイトは無効の可能性がある
・資金繰りの悪化を防ぐために数ヶ月分の運転資金の確保が重要である
・契約書には締め日と支払日および検収期間を明記する必要がある
・振込手数料の負担区分や遅延損害金についても確認すべきである
・支払遅延が発生した際はまず冷静に事実確認を行うことが第一歩である
・悪質な未払いには内容証明郵便や公正取引委員会への通報を検討する
・少額訴訟や支払督促など法的手段も視野に入れた対策準備が必要である
本記事で解説した通り、この支払いサイクル自体は直ちに違法とは言えませんが、契約内容や実際の運用によっては法に触れる可能性があります。ご自身の契約形態がどの法律で保護されているのかを正しく理解し、契約書を細部まで確認することが、安定したビジネスライフを送るための第一歩です。万が一の事態に備え、正しい知識を武器に自らの権利を守っていきましょう。
記事内でも重要トピックとして扱った「フリーランス新法」と「60日ルール」について、弁護士が非常にわかりやすく解説している動画です。
- 動画タイトル: 【フリーランス新法】60日以内に報酬を支払わなかったらどうなる?【弁護士解説】
- チャンネル: Bamboo Incubator
- URL: https://www.youtube.com/watch?v=21tYN-OGpc8


