SF小説の金字塔として名高い田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』。長きにわたり愛され続けるこの作品は、壮大なスケールの物語もさることながら、アニメーション作品における「声優」の豪華さでも知られています。1988年から制作された石黒昇監督版(以下、旧作/石黒版)は、当時の男性声優のほぼ全てを起用したと言われるほどで、「銀河声優伝説」という異名を持つほどです。一方で、2018年から始動したProduction I.G制作の『銀河英雄伝説 Die Neue These』(以下、新作/DNT版)もまた、現代のアニメ界を牽引するトップ声優たちが集結しており、新旧どちらも甲乙つけがたい魅力に溢れています。
本記事では、銀河英雄伝説の声優について、新旧のキャスト比較を中心に、それぞれの演技の魅力やキャスティングの背景などを詳細に調査し、解説していきます。
銀河英雄伝説の声優は新旧どちらも伝説級!主役と準主役の徹底比較
『銀河英雄伝説』の物語の中心となるのは、銀河帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムと、自由惑星同盟のヤン・ウェンリーです。この二人の天才と、彼らを支える副官や後継者たちの声優は、作品の顔として極めて重要な役割を担っています。新旧それぞれのキャスティングにはどのような特徴があるのでしょうか。
常勝の天才ラインハルト:堀川りょうから宮野真守への継承
銀河帝国の若き覇者、ラインハルト・フォン・ローエングラム。旧作で声を担当したのは堀川りょう(当時は堀川亮)です。旧作におけるラインハルトは、姉アンネローゼへの愛と、ゴールデンバウム王朝への激しい憎悪、そして宇宙を手に入れるという野心が混在する複雑なキャラクターでした。堀川りょうの高貴でありながら鋭利な刃物のような声質は、ラインハルトの「蒼氷色」の瞳の冷徹さと、内なる情熱を見事に表現していました。特に、若さゆえの焦燥感から、次第に皇帝としての威厳を身につけていく過程の演技は圧巻であり、多くのファンにとって「ラインハルト=堀川りょう」という図式は絶対的なものとなりました。
一方、新作『Die Neue These』でラインハルトを演じるのは宮野真守です。現代の声優界で圧倒的なカリスマ性と人気を誇る宮野真守の起用は、発表当時大きな話題となりました。宮野版ラインハルトは、旧作に比べてより「美しさ」や「耽美さ」、そして「孤独」が強調されている印象を与えます。宮野真守特有の艶のある低音と、感情が高ぶった際の爆発力は、ラインハルトのカリスマ性を現代的に再解釈しています。また、キルヒアイスに対する甘えや依存心といった人間的な弱さも繊細に演じられており、神格化される前の「人間ラインハルト」としての側面が強く打ち出されています。
不敗の魔術師ヤン・ウェンリー:富山敬の温かみと鈴村健一の継承
自由惑星同盟の智将、ヤン・ウェンリー。旧作で彼を演じたのは、名優・富山敬です。富山敬の演じるヤンは、歴史家志望の青年らしい穏やかさと、軍人としての非凡な才能のギャップが最大の魅力でした。飄々とした語り口の中に、民主主義への確固たる信念や戦争への嫌悪感が滲み出る演技は、ヤンの人間性を決定づけました。富山敬が亡くなった後、外伝などでは郷田ほづみが代役を務めましたが、富山敬の作り上げたヤン像は、まさに「不敗」の存在としてファンの心に刻まれています。
新作でこの難役に挑んだのは鈴村健一です。鈴村健一は、富山敬への深いリスペクトを公言しており、新作のヤンにおいても、富山敬の演技のニュアンスを研究し、丁寧に取り入れていることが感じられます。しかし単なる模倣ではなく、鈴村健一自身の持ち味である「親しみやすさ」や「軽妙さ」が加わることで、部下から慕われる「ヤン提督」の姿がより現代的なリーダー像として描かれています。特に、ユリアンやフレデリカとの会話における自然なトーンは、新作ならではのリアリティを生み出しています。
唯一無二の友キルヒアイス:広中雅志と梅原裕一郎のアプローチ
ラインハルトの半身とも言えるジークフリード・キルヒアイス。旧作の広中雅志は、誠実で温厚な人柄と、ラインハルトを諫めることができる唯一の存在としての強さを、柔らかくも芯のある声で演じきりました。その死が物語に与えた衝撃があまりにも大きかったのは、広中雅志の声が持つ「安心感」が喪失されたことと直結しています。
新作の梅原裕一郎は、低音の落ち着いたトーンが特徴です。梅原版キルヒアイスは、旧作に比べてより大人びた、静謐な印象を与えます。ラインハルトを包み込むような包容力があり、言葉少なに佇むだけで存在感を発揮する演技は、映像美が進化した新作の画作りとも非常にマッチしています。彼の早期の退場が、宮野真守演じるラインハルトに与える欠落感をより際立たせる結果となっています。
次代を担うユリアン:佐々木望の成長と梶裕貴の芯の強さ
ヤンの被保護者であり、物語の後半で重要な役割を果たすユリアン・ミンツ。旧作の佐々木望は、当時デビュー間もない若手声優でした。物語が進むにつれてユリアンが少年から青年へ、そして軍人へと成長していく過程と、佐々木望自身の声優としての成長がリンクしており、ドキュメンタリーのような感動を与えました。
新作の梶裕貴は、既に多くの主役経験を持つ実力派としてキャスティングされました。そのため、物語の初期段階から非常に安定した演技を見せています。梶版ユリアンは、素直で優秀な少年であると同時に、ヤンの背中を追いかける強い意志と、時折見せる鋭い観察眼が強調されています。現代のアニメーションにおいて「主人公」を演じ続けてきた梶裕貴ならではの、芯の通った「主人公性」がユリアンに付与されています。
銀河英雄伝説の声優は新旧で演技プランが異なる?帝国と同盟の将兵たち
主役級だけでなく、脇を固める提督や政治家たちの声優も、『銀河英雄伝説』の魅力を語る上で欠かせません。旧作では重厚な演劇的アプローチが多かったのに対し、新作ではより写実的でスタイリッシュな演技が求められている傾向があります。ここでは、特に印象的なキャラクターたちを比較します。
帝国の双璧:ミッターマイヤーとロイエンタール
「疾風ウォルフ」ことウォルフガング・ミッターマイヤーと、「金銀妖瞳」オスカー・フォン・ロイエンタール。この二人の友情と対比は物語の華です。
旧作では、ミッターマイヤーを森功至、ロイエンタールを若本規夫が演じました。森功至の正統派二枚目ボイスによる快活さと、若本規夫の独特な節回しと色気のある低音は、絶妙なコントラストを生み出していました。特に若本版ロイエンタールは、その個性的すぎる演技がキャラクターの「異端さ」を強調し、強烈なインパクトを残しました。
新作では、ミッターマイヤーを小野大輔、ロイエンタールを中村悠一が担当しています。この二人はプライベートでも親交が深いことで知られており、その関係性が「双璧」の阿吽の呼吸に反映されています。小野大輔は豪快さと愛妻家としての優しさを、中村悠一はニヒルで冷笑的でありながらも内面に熱さを秘めた複雑さを、それぞれ現代的な解釈で演じています。旧作に比べると、よりナチュラルな会話劇としての側面が強くなっています。
氷の瞳オーベルシュタイン:塩沢兼人と諏訪部順一
パウル・フォン・オーベルシュタインは、冷徹な参謀として物語を動かすキーパーソンです。旧作の塩沢兼人は、その独特な冷ややかな声質で、感情を排したオーベルシュタインの不気味さと知性を完璧に表現しました。塩沢兼人の急逝により、彼の演じたオーベルシュタインはまさに「伝説」となり、後任を見つけることは不可能とさえ言われていました。
新作でこの難役に挑んだのは諏訪部順一です。諏訪部順一は、塩沢兼人の演技を意識しつつも、単なる模倣にならないよう、自身の持ち味である深みのある低音を活かした演技プランを構築しています。新作のオーベルシュタインは、より「能面」のような無機質さが強調されつつ、言葉の端々に絶対的な論理性が宿っています。旧作ファンからも「諏訪部なら納得」と言わしめるほどの説得力を持ったキャスティングとなりました。
薔薇の騎士シェーンコップ:羽佐間道夫と三木眞一郎
最強の白兵戦部隊「ローゼンリッター」を率いるワルター・フォン・シェーンコップ。旧作の羽佐間道夫は、洋画の吹き替えで培ったダンディズムと、大人の余裕を感じさせる演技で、不良中年としてのシェーンコップを魅力的に演じました。ヤンとの軽妙な皮肉の応酬は、旧作の大きな見どころの一つです。
新作の三木眞一郎は、よりシャープで危険な香りのするシェーンコップを演じています。三木眞一郎の色気のある声は、女性関係の派手さや、戦闘時における冷酷さを際立たせています。また、ヤン役の鈴村健一との掛け合いにおいても、互いに信頼しつつも皮肉を言い合う関係性がテンポよく描かれており、現代的なバディ感が出ています。
銀河英雄伝説の声優の新旧比較まとめ
銀河英雄伝説の声優の新旧比較についてのまとめ
今回は銀河英雄伝説の声優の新旧比較についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・旧作(石黒版)は「銀河声優伝説」と呼ばれ当時の男性声優が総出演している
・新作(Die Neue These)は現代のトップ声優が集結した豪華なキャスティングである
・旧作のラインハルト役である堀川りょうは高貴さと鋭さを表現した
・新作のラインハルト役である宮野真守はカリスマ性と人間的な弱さを演じている
・旧作のヤン役である富山敬は穏やかさと信念を併せ持つ演技で伝説となった
・新作のヤン役である鈴村健一は富山敬をリスペクトしつつ現代的な親しみやすさを加えた
・旧作のキルヒアイス役である広中雅志は温厚さと安心感を象徴していた
・新作のキルヒアイス役である梅原裕一郎は静謐で大人びた印象を与えている
・旧作のユリアン役である佐々木望は声優自身の成長と役の成長がリンクしていた
・新作のユリアン役である梶裕貴は芯の強さと主人公性を持っている
・双璧のキャストは旧作が森功至と若本規夫で新作が小野大輔と中村悠一である
・新作の双璧は演者同士のリアルな関係性が演技の呼吸に活かされている
・オーベルシュタイン役は塩沢兼人の唯一無二の演技から諏訪部順一が見事に継承した
・シェーンコップ役は羽佐間道夫のダンディズムから三木眞一郎のシャープな色気へと変化した
・新旧どちらのキャスティングもそれぞれの時代の最高峰であり作品の質を高めている
『銀河英雄伝説』は、新旧どちらのアニメーションも、その時代の最高峰の声優たちが魂を吹き込んだ傑作です。 旧作の重厚な演劇的魅力と、新作の洗練された写実的魅力、それぞれの違いを味わうことで、作品世界をより深く楽しむことができます。 ぜひ、両方の作品を見比べて、あなたにとっての「銀河の歴史」を体感してみてください。

