ボカロPとして絶大な人気を誇るユリイ・カノンが主宰する音楽プロジェクト「月詠み」。その文学的な歌詞世界と、疾走感あふれるピアノロックサウンドは多くのリスナーを魅了し続けています。しかし、月詠みの活動を追っていると、ある一つの疑問に突き当たることがあります。それは、「ボーカルが変わったのではないか?」という点です。
初期の楽曲と近年の楽曲を聞き比べると、明らかに声質や歌い方が異なっていることに気づく方も多いでしょう。これは単なる歌唱法の変化なのでしょうか、それともメンバー自体の交代があったのでしょうか。また、そこにはどのような意図が隠されているのでしょうか。
本記事では、月詠みのボーカル体制の変遷について徹底的に調査を行いました。なぜボーカルが変わったと言われているのか、その背景にある「物語」との関連性、そしてそれぞれのボーカルの魅力について、詳細に解説していきます。
月詠みのボーカルが変わったと言われる真相とは?
月詠みというプロジェクトを深く理解するためには、まずその「ボーカルが変わった」という事実の真相を正確に把握する必要があります。結論から申し上げますと、月詠みは活動のフェーズ(章)に合わせて、メインボーカルを変更しています。これは一般的なバンドのメンバーチェンジとは異なり、プロジェクトのコンセプトそのものに深く根ざした戦略的な変更であると言えます。ここでは、具体的なボーカルの変遷と、それぞれの時期における特徴について詳しく見ていきましょう。
初代ボーカルmikotoの魅力と特徴
月詠みが活動を開始したのは2020年10月のことです。この記念すべきスタートを切った際の初代ボーカルが「mikoto」です。彼女は、月詠みの第1章にあたる「欠けた心象、世のよすが」という物語の楽曲を担当しました。
mikotoの歌声の特徴は、その凛とした強さと、どこか儚さを感じさせる透明感にあります。ユリイ・カノンが作り出す、BPMが速く言葉数の多い難解な楽曲において、彼女の滑舌の良さとリズム感は不可欠な要素でした。特に、デビュー曲である「こんな命がなければ」や、大ヒットを記録した「新世界から」などの楽曲では、絶望と微かな希望が入り混じった歌詞の世界観を、彼女の鋭くも美しい声が見事に表現しています。
彼女のボーカルスタイルは、感情を爆発させるというよりは、楽曲の持つ物語を冷静かつ情熱的に「語り部」として届けるような印象をリスナーに与えました。高音域の伸びやかさと、低音域の安定感のバランスが非常に良く、ピアノを主体とした激しいバンドサウンドの中でも埋もれることなく、言葉の一つひとつがはっきりと耳に届くのが特徴です。このmikotoの歌声こそが、月詠みの初期のイメージを決定づけたと言っても過言ではありません。
2代目ボーカルyueへの交代劇
月詠みのプロジェクトにおいて大きな転換点となったのが、2021年5月からの第2章「月が満ちる」の開幕です。この物語の進行に合わせて、メインボーカルはmikotoから「yue」へとバトンタッチされました。これが、「月詠みのボーカルが変わった」と多くのリスナーが認識した最大のタイミングです。
yueの歌声は、mikotoとはまた異なる魅力を持っています。彼女の声には、聴く者の心を揺さぶるようなエモーショナルな響きと、深みのある表現力が備わっています。第2章の楽曲は、より内面的な感情の揺らぎや、物語の登場人物たちの葛藤に焦点を当てたものが多く、yueの表現力豊かなボーカルがその世界観に見事にマッチしました。
例えば、「ヨダカ」や「生きるよすが」といった楽曲では、ウィスパーボイスのような繊細な歌い出しから、サビでの力強い歌唱まで、幅広いダイナミクスレンジを駆使しています。特に、感情を絞り出すような歌い方は、聴き手に強烈なカタルシスを与えます。yueの起用によって、月詠みの音楽はよりドラマチックで、物語性を帯びたものへと進化を遂げました。この交代劇は、単なるメンバーの入れ替えではなく、プロジェクトが描く「物語」が次のステージへと進んだことを象徴する出来事だったのです。
ユリイ・カノンが描く物語とボーカルの関係
なぜ、月詠みはこれほどまでに明確にボーカルを変更する必要があったのでしょうか。その答えは、主宰者であるユリイ・カノンの作家性と、月詠みというプロジェクトの成り立ちにあります。月詠みは、単に良い音楽を届けるだけのバンドではありません。小説や映像、そして音楽を融合させた「物語を表現するためのプロジェクト」なのです。
ユリイ・カノンは、それぞれの章(ストーリー)ごとに異なる主人公やテーマを設定しています。第1章と第2章では、描かれる視点や感情の色合いが異なります。そのため、その物語を最も適切に表現できる「声」を選ぶ必要があったのです。これは、アニメーション作品でキャラクターによって声優が変わるのと似た感覚かもしれません。
つまり、ボーカルが変わったのは、前任者が不適合だったからでも、仲違いがあったからでもありません。「その章の物語を語るのに、最もふさわしい声が必要だったから」という、クリエイティブな必然性によるものです。ユリイ・カノンは、楽曲だけでなく、ボーカリストの声質そのものを「楽器」や「演出の一部」として捉えており、その徹底したこだわりが、月詠みの世界観をより強固なものにしています。この構造を理解すると、ボーカル交代がネガティブなものではなく、作品世界を拡張するためのポジティブな変化であることが分かります。
バンドではなく「プロジェクト」としての性質
月詠みのボーカルが変わったことに対して違和感を覚える人がいる背景には、一般的な「バンド」のイメージで捉えてしまっていることがあるかもしれません。通常、バンドにおいてボーカルの交代は存続の危機や、音楽性の抜本的な変化を意味する重大事です。しかし、月詠みは自らを「プロジェクト」と定義しています。
この「プロジェクト」という形式は、固定メンバーに縛られず、表現したい内容に合わせて柔軟に形態を変えることを可能にします。ボーカルだけでなく、映像クリエイターやイラストレーターも作品ごとに変わることがあります。この流動性こそが、月詠みの強みであり、常に新鮮な驚きをリスナーに提供し続けられる理由でもあります。
ボーカルが変わったことは、月詠みが「特定のメンバーの集まり」ではなく、「ユリイ・カノンの脳内にある世界を具現化するための集団」であることを明確に示しています。mikotoからyueへの変化、そしてその後の活動も含め、すべては月詠みという巨大な物語の一部なのです。リスナーは、ボーカルの交代を通じて、まるで長編小説のページをめくるように、新しい章の始まりを聴覚で体感することができるのです。
月詠みのボーカルが変わったことによる音楽性の変化
ボーカルが変われば、当然ながら生まれてくる音楽にも変化が生じます。月詠みの場合、それは単に声が変わったということ以上に、楽曲のアプローチやサウンドプロダクションにも大きな影響を与えています。ここでは、ボーカルの交代が音楽性にどのような変化をもたらしたのか、そしてそれがファンにどう受け止められているのかについて、深く掘り下げていきます。
第1章と第2章の楽曲の違い
初代ボーカルmikotoが担当した第1章と、2代目ボーカルyueが担当した第2章(そしてそれ以降)では、楽曲の質感に明確な違いが見られます。
第1章の楽曲は、ユリイ・カノンのボカロPとしてのルーツを色濃く反映した、高速でテクニカルなピアノロックが中心でした。「死」や「絶望」といった重いテーマを扱いながらも、mikotoの鋭いボーカルによって、どこか無機質で美しい、ガラス細工のような緊張感が漂っていました。メロディラインも非常に起伏が激しく、人間離れした難易度の楽曲を、正確無比に歌い上げることが求められていたように感じられます。
一方、yueを迎えた第2章以降の楽曲は、より「人間味」や「温かみ」、あるいは「生々しい感情」が前面に出るようになりました。サウンド面でも、ピアノの旋律は相変わらず美しいものの、ギターの歪みやリズム隊のグルーヴがより強調され、エモーショナルなロックサウンドへと接近しています。yueの表現力を活かすために、テンポを落としてじっくりと聴かせるバラード調のパートが増えたり、息遣いを感じさせるアレンジが施されたりと、ボーカルの特性に合わせた楽曲制作が行われていることが分かります。これにより、月詠みの音楽は「精巧な芸術品」から「心に寄り添う物語」へと、その深みを増していったのです。
ファンの反応と受け止め方
好きなバンドやプロジェクトのボーカルが変わるというのは、ファンにとっては非常にセンシティブな問題です。月詠みの場合も、当初は戸惑いの声がなかったわけではありません。特にmikotoの歌声に魅了されてファンになった層からは、交代を惜しむ声や、慣れ親しんだ声が聴けなくなることへの寂しさがSNSなどで吐露されることもありました。
しかし、月詠みのファン層は、ユリイ・カノンが作り出す「物語」そのもののファンであることも多く、ボーカル交代の理由が「物語の進行によるもの」であることが説明されると、その変化を好意的に受け入れる人が大半でした。むしろ、「新しい主人公にはどんな声が合うのだろう?」「yueの声は次のストーリーにぴったりだ」といった具合に、考察や期待を楽しむ空気が醸成されていきました。
また、yueの実力と表現力が非常に高かったことも、スムーズな移行を成功させた大きな要因です。彼女が歌う楽曲が公開されるにつれ、「mikotoも良かったけれど、yueも素晴らしい」「それぞれの良さがある」という認識が広まりました。結果として、ボーカルが変わったことでファンが離れるのではなく、むしろ表現の幅が広がったことで新たなファン層を獲得することに成功しています。現在では、過去のボーカルも現在のボーカルも、どちらも月詠みにとって欠かせない存在としてリスペクトされています。
今後の活動とボーカル体制の展望
月詠みは現在も物語を紡ぎ続けており、その活動は留まるところを知りません。今後、ボーカル体制がどのように変化していくかは、常にファンの注目の的です。
プロジェクトの性質上、新しい章が始まれば、また新たなボーカルが登場する可能性は十分に考えられます。あるいは、過去のボーカルが再登場し、物語の中で重要な役割を果たす展開もあり得るかもしれません。例えば、異なる時間軸や視点が交錯するようなストーリーになれば、mikotoとyueが共演するような楽曲が生まれる可能性もゼロではないでしょう。また、ゲストボーカルを迎える形でのコラボレーションなど、柔軟な体制だからこそできる多様な音楽的実験が期待されます。
最近では、アニメ主題歌への起用など、メディア露出も増えており、より幅広い層に音楽を届けるために、多様な声質を持つボーカリストを起用する戦略も考えられます。しかし、どのような形になったとしても、ユリイ・カノンが「物語に最適解を選ぶ」という姿勢を崩さない限り、月詠みの音楽の質が落ちることはないでしょう。私たちは、ボーカルが変わることを恐れるのではなく、次にどのような「声」が月詠みの世界を彩ってくれるのか、その変化をワクワクしながら待つことができるのです。
月詠みのボーカルが変わった件についてのまとめ
月詠みのボーカル変更とプロジェクトの構造についてのまとめ
今回は月詠みのボーカルが変わった件についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・月詠みのボーカル交代はメンバー間の不仲や脱退ではなく、プロジェクトの戦略的な判断によるものである
・プロジェクトは「物語」を表現することを主軸としており、章ごとに最適なボーカルが選定されている
・第1章のボーカル「mikoto」は、凛とした強さと透明感を持ち、初期の疾走感ある楽曲を支えた
・mikotoの歌声は、難解な歌詞とメロディを正確に伝える、語り部としての役割を果たしていた
・第2章から加入したボーカル「yue」は、エモーショナルで深みのある表現力が特徴である
・yueの起用により、楽曲はより感情的でドラマチックな方向へと進化を遂げた
・ユリイ・カノンはボーカリストの声を「楽器」や「演出の一部」として捉え、物語に合わせて使い分けている
・一般的なバンドとは異なり、月詠みは流動的なメンバー構成を持つ「プロジェクト」形式をとっている
・楽曲の音楽性もボーカルに合わせて変化し、テクニカルなピアノロックから情緒的なロックへと幅を広げた
・ファンの多くは、ボーカル交代を物語の進行として好意的に受け入れ、考察の一環として楽しんでいる
・mikotoとyue、それぞれのボーカルに異なる魅力があり、どちらもファンから高く評価されている
・今後も新しい物語の展開に合わせて、新たなボーカルが登場したり体制が変化したりする可能性がある
・ボーカルが変わることはネガティブな要素ではなく、作品世界を拡張するためのポジティブな進化である
・アニメタイアップなどの外部要因によっても、柔軟にボーカル体制が変わることも予想される
・最終的に重要なのは「誰が歌うか」以上に「ユリイ・カノンの描く世界観がいかに表現されるか」である
月詠みというプロジェクトにおいて、ボーカルの変化は物語のページをめくるような必然的な出来事です。変わることを恐れず、進化し続けるその姿勢こそが、多くのリスナーを惹きつけて止まない理由なのでしょう。これからも、彼らが奏でる新しい「物語」と「歌声」に耳を傾けていきたいと思います。

